跡部千絵美
0.はじめに
学習者に高く評価される授業を行うことは、学習者の学習意欲を高めることにつながる。その一方で実習を行う前、どのような授業が学習者にとって役に立ち、楽しんでもらえるのかを予測することに筆者は困難を感じていた。なぜなら学習者についての情報が少なく、日本語教師としての経験が不足していたためである。さらに筆者が担当した中級クラスでは他のクラスとは異なり教科書を全く使用せず、中級を担当する実習生の話し合いによって教授項目を決定した。この教授項目の決定も同様の理由により困難であった。
本稿は今年度の中級クラスの学習者に高く評価された授業をとりあげ、その要因を考察することにより、今後の教案作成に役立てることをねらうものである。
1.中級クラスで行った授業
中級クラスでは次のような授業を行った。
表1:中級クラスの授業の概要
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1時間目 |
2時間目 |
3時間目 |
| 8/15 |
ガイダンス |
自己紹介 |
ウェルカムパーティー |
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香川 |
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| 8/16 |
表現(1) <普通体> |
表現(2) <縮約形> |
表現(3) <あいづち> |
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跡部 |
跡部 |
跡部 |
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| 8/19 |
生活(1) <買い物> |
生活(2) <料理> |
生活(3) <インターネット> |
| |
香川 |
香川 |
香川 |
| 8/20 |
旅行(1) <名古屋の名所> |
旅行(2) <インターネット> |
旅行(3) <電話で道をきく> |
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跡部 |
跡部 |
跡部 |
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| 8/21 |
学校(1) <使役・不調を訴える> |
学校(2) <許可・禁止・注意> |
学校(3) <ビデオ> |
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香川 |
香川 |
香川 |
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| 8/22 |
敬語・名古屋弁 |
歌のききとり |
宅配ピザの電話注文 |
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香川 |
跡部 |
跡部 |
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| 8/23 |
アクティビティ |
フェアウェルパーティー |
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<8月15日2時間目:自己紹介>
・自己紹介の仕方についてのプリントを読む
・自己紹介の文章を考え、自己紹介をする
・クロスワードパズル(自己紹介の文章作成時に時間があまった人に配布)
<8月16日1時間目:普通体>
・プリントを使用し、丁寧体の文を普通体の文にかえる
・普通体会話のダイアログをペアで練習し、発表
・カードを引き、書かれている内容を依頼/勧誘する
<8月16日2時間目:縮約形>
・アニメの登場人物の説明(名前と性格)が書かれたプリントを読む
・アニメを見て、プリントの説明をもとにそれぞれの登場人物が誰であるかを考える
・縮約形の説明をし、マンガを読んで縮約形の部分に印をつける
<8月16日3時間目:あいづち>
・あいづちを含んだダイアログをペアで練習し、発表
・ペアでインタビューを行う(インタビューをする側はあいづちをうつ)
<8月19日1時間目:買い物>
・地下鉄路線図の紹介
・学習者の家の最寄り駅と行ったことのある駅を質問
・学習者の買いたいものを質問
・プリント(名古屋ガイドマップ)を見ながら学習者の買いたいものを売っている場所を質問
・目的地までの電車での行き方を説明する練習
・教科書を用いてダイアログをペアで練習
<8月19日2時間目:料理>
・名古屋の食べ物を紹介
・プリントを使って料理に関する表現を説明
・味噌カツの作り方を書いたプリントを読み、絵を見ながら手順を言う
・牛丼の作り方の聞き取り
・国別にグループになり各国の料理の作り方を紹介
<8月19日3時間目:インターネット>
・デパートのホームページを見て、プリントに書かれた質問に関する情報を得る
・調べたことを発表する
<8月20日1時間目:名古屋の名所>
・聞き取れないことば、意味のわからないことばを聞き返す表現を板書し説明、練習
・ダイアログ(内容:名古屋の名所について質問する)のプリントを読む
・ダイアログにならい名古屋の名所について教師に質問、答えを聞き取る
<8月20日2時間目:インターネット>
・タスク(名古屋に遊びに来る友達のために名古屋のホテルについて調べる)の説明
・希望する日付、人数、料金などをプリントに記入
・インターネットで希望する条件のホテルを調べる
・調べた結果を発表する
<8月20日3時間目:電話で道をきく>
・ダイアログ(電話で道をきく)の練習
・地図を見てダイアログで説明されている場所を探す
・イントネーションに気をつけダイアログを練習
・ダイアログ(電話会話)の開始部と終結部のみを練習、発表
<8月21日1時間目:使役・不調を訴える>
・使役形の練習
・使役形「〜せていただけませんか」を使った許可求めの表現の練習
・ダイアログ(身体の不調を訴え帰宅の許可を求める)の練習
・病気の表現の練習
<8月21日2時間目:許可・禁止・注意>
・許可・禁止・注意の表現(「〜てもいいですか」「〜てはいけません」など)の練習
・自分の国の中学のルールを紹介する
・AETが授業をする際のルールを考え、発表
・普通体での許可・禁止の表現(「〜てもいい」「〜ちゃだめ」)の練習
<8月21日3時間目:ビデオ>
・ビデオ(『さくら』)を見る
・ビデオを見ながら出てくるもの、人などについての質問に答える
・自分の国の中学との違いを言う
・フェアウェルパーティーの出し物について話し合う
<8月22日1時間目:敬語・名古屋弁>
・敬語の形の作り方の説明
・敬語の練習
・名古屋弁の敬語「〜みえる」「〜やあ」の説明
・敬語と名古屋弁のテープの聞き取り
・学校でよく使用される名古屋弁の語彙・アクセントの紹介
<8月22日2時間目:歌のききとり>
・週のカラオケランキングのホームページをプリントアウトしたものを読む
・日本で流行中の歌を2曲聞く
・歌詞プリントの穴埋めをする
<8月22日3時間目:宅配ピザの電話注文>
・注文の際に質問されることをプリントを使って説明
・注文するピザを決める
・注文の会話の練習
・実際に電話でピザを注文する
中級クラスでは1日の授業後にアンケートを行い、それぞれの授業に対する評価を求めた。アンケートはそれぞれの授業についての3つの質問に対してA〜Fの6段階で評価してもらうというものであった。答え方は初日のアンケート用紙に次のように書いて指示した。
How to answer.
Ex.
Q: Were there too many students in your class?
I agree with
+3 +2 +1 −1 −2 −3
A B C D E F
3つの質問とは、「役に立ったか(Was this class helpful?)」「理解できたか(Did you understand it?)」「楽しかったか(Did
you enjoy it?)」であった。さらに授業に対するコメントや希望があれば書いてもらう欄を設けた。なお中級クラスの学習者は5名いたが、アンケートは毎回全員から回収できたわけではない。またアンケートは無記名で回答してもらった。
ここでアンケートの結果を示す。全ての学習者のA〜Fの評価と、それを上の規則に従って数値化し、項目ごとに全ての学習者のアンケート結果を合計して人数で割ったもの、つまり評価の平均を示す1)。以下、本稿ではこれを「評価平均値」と呼ぶ。なお小数点以下第2位を四捨五入している。
また学習者の授業に対するコメントが書かれていたもののうち、具体的な評価が書かれていたものを紹介する。
<8月15日2時間目:自己紹介>
・役に立った:A,A,B・・・2.7
・理解できた:A,A,C・・・2.3
・楽しかった:A,A,B・・・2.7
・コメント:自己紹介の復習はとても役に立ち、実用的だった。
<8月16日1時間目:普通体>
・役に立った:A,A,C,A・・・2.5
・理解できた:B,A,E,A・・・1.5
・楽しかった:A,B,C,A・・・2.3
・コメント:普通体はいい復習になった。/初めて勉強したのでついていくのが大変だった。
<8月16日2時間目:縮約形>
・役に立った:A,A,E,A・・・1.8
・理解できた:C,A,F,A・・・1.0
・楽しかった:B,A,E,A・・・1.5
・コメント:初めて勉強したのでついていくのが大変だった。先生のせいではなく、自分の勉強不足だ。/勉強したことがなく、もっと例があればよかった。/マンガが楽しかった。
<8月16日3時間目:あいづち>
・役に立った:A,C,B,A・・・2.3
・理解できた:A,A,B,A・・・2.8
・楽しかった:A,C,B,A・・・2.3
・コメント:あいづちの話と練習がおもしろかった。
<8月19日1時間目:買い物>
・役に立った:A,B,A,A,A・・・2.8
・理解できた:A,A,B,A,A・・・2.8
・楽しかった:A,B,A,A,A・・・2.8
・コメント:買い物と地下鉄がよかった。
<8月19日2時間目:料理>
・役に立った:B,A,B,A,A・・・2.6
・理解できた:A,A,B,A,A・・・2.8
・楽しかった:A,B,A,A,A・・・2.8
<8月19日3時間目:インターネット>
・役に立った:A,D,B,C,A・・・1.6
・理解できた:A,A,B,A,A・・・2.8
・楽しかった:A,C,B,C,A・・・2.0
・8月19日の授業全体へのものと思われるコメント:実用的でとても良い。/授業はよかったが、考えるのが大変だった。/とても実用的で役に立った。ちょうどいいペースだった。
<8月20日1時間目:名古屋の名所>
・役に立った:A,A,B,A・・・2.8
・理解できた:A,B,B,A・・・2.5
・楽しかった:A,A,B,A・・・2.8
<8月20日2時間目:インターネット>
・役に立った:A,B,A,A・・・2.8
・理解できた:A,C,A,A・・・2.5
・楽しかった:A,C,A,A・・・2.5
・コメント:インターネットに関する用語のプリントは自分には難しかった。
<8月20日3時間目:電話で道をきく>
・役に立った:B,B,A,A・・・2.5
・理解できた:C,D,A,A・・・1.5
・楽しかった:E,C,A,A・・・1.3
・コメント:イントネーションはとても難しい。イントネーションの練習は文単位ではなく語あるいは句の単位で行ったほうがいいと思う。よく知らない語が含まれている文は特に長く感じた。/イントネーションと電話の開始部・終結部はとてもよかった。道ききの練習もよかった。/イントネーションはとても役に立った。
<8月21日1時間目:使役・不調を訴える>
・役に立った:A,A,A,A,A・・・3.0
・理解できた:A,B,A,B,B・・・2.4
・楽しかった:A,A,A,A,B・・・2.8
・コメント:使役形は本当に理解するまでもっと勉強が必要だ。
<8月21日2時間目:許可・禁止・注意>
・役に立った:A,A,A,A,B・・・2.8
・理解できた:A,B,A,A,B・・・2.6
・楽しかった:A,A,A,A,A・・・3.0
・コメント:普通体の復習がよかった。
<8月21日3時間目:ビデオ>
・役に立った:A,A,D,B,A・・・2.0
・理解できた:A,B,A,B,A・・・2.6
・楽しかった:A,A,B,B,A・・・2.6
・コメント:教室のことばはよかった。
・8月21日の授業全体へのものと思われるコメント:今日の内容は働くときにとても役立つ。/いいペースでついていける。/使役形の勉強はいい復習になった。/楽しかった。使役形は初めて勉強した。
<8月22日1時間目:敬語・名古屋弁>
・役に立った:A,A,A,A,A・・・3.0
・理解できた:B,A,A,B,A・・・2.6
・楽しかった:A,A,A,A,A・・・3.0
・コメント:敬語のいい復習になった。/名古屋弁を知ることは役に立つ。/名古屋弁の勉強は好きだ。
<8月22日2時間目:歌のききとり>
・役に立った:A,B,A,A,A・・・2.8
・理解できた:B,A,B,B,A・・・2.4
・楽しかった:A,B,A,A,A・・・2.8
・コメント:カラオケランキングは最近のミュージシャンを知るのにとても役立つ。/歌はきいていておもしろかった。/音楽をきくのは好きだ。
<8月22日3時間目:宅配ピザの電話注文>
・役に立った:A,B,A,A,A・・・2.8
・理解できた:B,A,A,A,A・・・2.8
・楽しかった:A,B,A,B,A・・・2.6
・コメント:ピザの電話注文の勉強はとても役に立った。/ピザの注文は楽しい。これでお腹が減っても困らない。
・8月21日の授業全体へのものと思われるコメント:今日はとてもいい授業だった。語彙は難しかったが、どの授業も本当に楽しかった。/日本で生活する上で非常に役に立つ情報だった。
授業後のアンケート用紙には授業に対する要望を書く欄もあった。そこに記入されていたことを紹介する。
・勉強した文の文法の概説(outline)があるといい。(8月19日)
・もっと名古屋弁を知りたかった。(8月22日)
授業後のアンケートでいずれかの項目において評価平均値3.0、つまり全ての学習者がAの評価をした授業は3つあった。ここでこの3つの授業が高く評価された要因について考察する。3つの授業とは8月21日1,2時間目と22日1時間目の授業である。
これらの授業に共通しているのは、文法を中心とした授業であったという点である。21日の1,2時間目の授業は使役形、許可や禁止の表現の練習を中心に行い、22日の1時間目も敬語の練習を行った。文法を中心とした授業を好むかどうかは学習者のレベルやニーズによって異なると考えられる。今回の実習の中級クラスの学習者についていえば、文法を中心とした授業を望んでいたと言える。中級クラスの学習者は日本語を勉強した経験があり、多くの学習者は使役などの文法事項が既習であった。しかしそれらを実際に使用する上ではまだ不安があると思われ、既習の文法事項を確認し自信を持って使用できるようになることを望んでいたと推測される。そのため文法を中心に行ったこれら3つの授業が学習者のニーズに応えるものであり、評価が高くなったと考えられる。さらにこれらの授業でとりあげた文法・表現は学校でよく使われるものであることも説明し、練習は学校の中での具体的な場面を想定して行った。この点も学習者のニーズを引き出し、学習意欲を持たせるために効果的であった。
さらにいずれかの項目において評価平均値が2.0に達しなかった4つの授業を評価が低かったものとしてその要因を考察する。評価が低かった4つの授業は、16日1,2時間目、19日3時間目、20日3時間目の授業であった。この中でも16日2時間目の授業は全ての項目における評価平均値が2.0に達しなかった。
これらの授業の評価が低くなった共通の要因だと考えられるのは、学習者にとって未習の文法・表現・漢字などが多かったという点である。16日1時間目の普通体は初めて学んだという学習者もいたが、授業では丁寧体を普通体にかえる練習は5分程度行ったのみで、その後すぐに各自で問題を解かせた。また問題を解かせる際の指示の仕方がわかりにくかったために、問題を難しく感じ戸惑っていた学習者がいた。「理解できた」とする評価平均値が1.5だったのは、普通体の練習をもっと行うことが望まれていたためだと推測される。16日2時間目の縮約形の授業についても同様のことが言える。縮約形について未習の学習者がいたにも関わらず、規則の説明をしただけで、多くの例を出したり練習をすることなく問題を解かせた。そのため「理解できた」とする評価平均値が1.0となってしまった。この2つの授業に共通しているのは練習の機会が不足していたために学習者が理解しないまま授業を終わってしまったという点である。
19日3時間目の授業は「役に立った」という項目の評価平均値が低かった。これは内容がインターネットを利用して情報を得るというもので、具体的にはデパートに入っているレストランやそのメニューなどについて調べた。これらの情報は学習者にとって必要性が低いと考えられ、そのために「役に立った」と感じられにくかったと推測される。
20日3時間目は電話による道ききを行った。この授業も16日の授業と同様、道ききで使われる表現を既習のものとして扱い、確認や練習をせずに問題を解かせた。イントネーションの練習は何度もリピートさせて行ったが、上達しない学習者のイントネーションを訂正し続けたことで「楽しかった」という項目の評価平均値が下がったと考えられる。上で「楽しかった」という項目にEをつけた学習者は、イントネーションの練習が文単位であることについて「長い」とコメントしていた学習者である。過剰に訂正することにより学習者の自信や意欲をそぐような結果となってしまった。
授業後アンケートの結果より、この実習の学習者に高く評価された授業は文法を中心に扱った授業であり、低く評価された授業は(1)基礎的な部分に重点を置かなかったために難しく感じた授業、(2)実生活における必要性が感じられなかった授業、(3)教師が誤りを訂正しすぎたために難しく感じた授業であると言える。ただしこれらは今回の実習の中級学習者による評価において現れた要因である。
3.事後アンケート結果
この実習では最終日のアクティビティの最中に、全てのクラスの学習者に対して事後アンケートを行った。中級クラスの学習者には全クラス共通のアンケートに加え、中級クラスの授業に対する評価をたずねるアンケートも行った。ここではこの中級クラスを対象としたアンケート結果をまとめ、考察することとする。
アンケートでたずねたのは次の(1)〜(5)の項目である。なお質問は英語で書き、回答のほとんども英語で書かれていた。
(1)印象に残ったアクティビティは何ですか。上から3つあげてください。
(2)役に立ったアクティビティは何ですか。上から3つあげてください。
(3)楽しかったアクティビティは何ですか。上から3つあげてください。
(4)役に立たなかったアクティビティは何ですか。いくつでもあげてください。
(5)授業で勉強したこと以外で、特に勉強したかったことはありますか。
表2〜表4は上の(1)〜(3)のアンケート結果である。回答は無記名で行ったため、それぞれの学習者は学習者A〜学習者Eとして示す。また表の中で「―――」と書いているのは、無回答だったあるいは「?」と書かれていた箇所である。
表2:印象に残ったアクティビティ|
|
学習者A |
学習者B |
学習者C |
学習者D |
学習者E |
| 1 |
ピザの電話注文 |
名古屋弁 |
文法構造 |
ピザの予約 |
ピザの注文 |
| 2 |
――― |
地下鉄 |
敬語 |
普通体 |
ビデオを見る |
| 3 |
――― |
敬語 |
学校 |
敬語 |
――― |
|
|
学習者A |
学習者B |
学習者C |
学習者D |
学習者E |
|
1 |
動詞の形の復習 |
ピザの注文 |
病気で早退するときの表現 |
ピザの予約 |
ビデオ |
| 2 |
ダイアログ:特に名古屋の名所 |
ロールプレイ |
電話 |
普通体 |
絵 |
| 3 |
名古屋弁講座 |
くりかえし |
ピザの注文 |
敬語 |
歌 |
|
|
学習者A |
学習者B |
学習者C |
学習者D |
学習者E |
| 1 |
音楽をきく |
ロールプレイ |
文法構造 |
音楽をきく |
歌 |
| 2 |
マンガのビデオを見る |
音楽をきく |
インターネット |
ロールプレイ:ダイアログ |
ビデオ |
| 3 |
カタカナゲーム |
――― |
――― |
――― |
――― |
(4)役に立たなかったアクティビティ
・時々よく理解しないままにエクササイズが終わり焦りを感じることがあった。(学習者A)
・マンガ→自分には難しすぎた。(学習者D)
・頭が働いているときはどれも役に立った。(学習者E)
(5)勉強したかったこと
・授業がもっと長ければ、漢字を勉強したかった。(学習者A)
・自由な質問時間があればよかった。(学習者D)
表2〜表4で示した学習者の回答から、学習者のニーズや興味には個人差が大きいことがうかがえる。その中で、複数の学習者が肯定的に評価しているアクティビティも存在する。
「印象に残った」あるいは「役に立った」アクティビティとして全ての学習者があげているのが、“宅配ピザの電話注文”(8月22日3時間目)である。また“敬語”(8月22日1時間目)も3名の学習者があげている。「楽しかった」アクティビティとしては4名の学習者が“歌”(8月22日2時間目)をあげている。これら3つがあげられた要因の1つとして、前日の授業であったため特に記憶に残っていたことが考えられる。しかし全ての学習者が前日以前のアクティビティもあげていることから、全日程の授業の中でこれらの授業が高く評価されたと判断することができる。
ここでこれら3つの活動を取り上げ、高く評価された要因について考察する。
宅配ピザの電話注文は、中級クラスの全ての授業の中で教師以外の日本人と接する唯一の授業であった。さらにピザの注文は形だけのものではなく、実際に翌日のフェアウェルパーティーに配達されるものであった。そのためとりわけ学習者の印象に残ったと考えられる。全員の学習者が店に電話をかけたが、多くの学習者は非常に緊張していた。そしてその前の電話注文の練習をとても熱心に行っていた。全員が無事ピザの注文をし終えることができ、学習者は喜びや達成感を感じていたようだった。翌日のパーティーでは届いたピザを見た中級クラスの学習者が他のクラスの学習者に“自分が注文したピザが届いた”ことを得意そうに話しており、学習者の自信につながったと考えられる。
敬語の授業は名古屋弁の授業と同じ授業時間に行われたため、学習者の印象に残っていないのではないかと予想していたが、実際には3名の学習者が印象に残った授業としてあげていた。これは学習者が敬語を練習したいというニーズを持っていたためであると考えられる。中級クラスの学習者は日本語を勉強した経験があり、敬語も既習であった。そして敬語を重要であると認識しながらも、自分自身の使用する敬語には自信が持てずにいたと推測される。そのため意欲的に敬語の練習に取り組み、印象にも残っていると考えられる。
「楽しかった」アクティビティとしてあげられていた“歌”はききとりの教材として使用した。日本で実習の時期に人気があった曲を選び、その週のカラオケランキングとともに示したため、日本の現代の文化を知るという意味でも学習者の興味を引いたようである。またこの授業は特に学習者の心理的な負担が少なかった授業であるという特徴がある。多くの時間を費やして曲をきき、歌詞の穴埋めをして、最後に答え合わせをした。答え合わせの際には学習者を指名するのではなく全体に向けて質問し、わかった人が声に出して答えるという方法で行った。そのため学習者は他の授業よりもリラックスできたと推測され、日本の歌を楽しむことができたと思われる。授業では発表などにより学習者に日本語を使わせることが必要である。しかし学習者に日本語の勉強を続ける意欲を持ってもらうためには、学習者をリラックスさせ楽しんでもらうことに重点を置く授業を行うことにも意味がある。
「役に立たなかった」アクティビティとしてあげられていたのは、いずれも学習者にとって難しすぎたものであった。学習者が自信を持って使用できるまで練習したり、学習者の理解度を確かめる必要があった。つまり反省点として、教案自体に問題があり、さらに教案どおりに授業を進めることに一生懸命になったために、学習者のペースに合わせなかったという2点があげられる。
「勉強したかったこと」では「漢字」と「自由な質問時間」があればよかったと述べられていた。この実習は話す・聞くことに重点を置いているが、希望者に対する宿題といった形で取り入れることもできた。また質問時間は特に設けず、授業中と休み時間のいつでも質問してよいことにしていた。しかし授業で勉強したこと以外についての疑問点を質問しづらい雰囲気があったのかもしれない。これらの2点は来年度以降の実習において検討してもらいたいと思う。
4.おわりに
授業後アンケートと事後アンケートを分析することによって学習者の視点から見た“いい授業”の特徴のいくつかを明らかにできた。これらのアンケート結果は本年度の学習者から得たものであるが、来年度以降の実習生が見ても教案作成の際の参考になる部分があると思う。筆者自身も今後日本語を教える機会があれば、上で述べた反省点を改善するように努めたい。