平成14年度

名古屋大学 言語文化部・国際言語文化研究科 公開講座
主催:名古屋大学言語文化部・大学院国際言語文化研究科 


「美と文化」


講座の開設主旨・目的

 「美とは恐ろしきもののはじめ」(リルケ)

 美とはなにか。美を語り尽くすことは難しい。それは美が捉えどころのないものだからである。たとえば、美を考究する美学であれ芸術学であれ、いまだにその全体像を完全には捉えられないでいる。
 物事がボーダーレスになり、人々が多様な観念や価値観を有することができるようになった今日、あらてめて美とは何かを考え直してみる必要があるのではないだろうか。人々の好き嫌い、美醜の観念、美男美女へのあこがれ、ファッションの変遷、それらの中に、歴史と文化、言語と行為の様々な相を見ることができるはずである。


講師氏名および担当日時、講義題目、キーワード

6月15日(土)

福田眞人(教授・大学院国際言語文化研究科)

 講義題目:「美とは何か」+「美と病」

 キーワード:美、美人、病、結核、蒼白、痩身(やせ)、天才信仰

 美とは何か?あまりにも多様で幅広い問題です。この困難な問いへのとっかかりを示しながら、美しいと考えられるに至った病、結核について語ります。結核は人類と共に古い病ですが、美しい病、天才の病というイメージが19世紀に完成されました。それと同時に死に至る病であるという認識がありました。この二つの分裂したイメージはどうして共存することができたのでしょうか。

 

山口庸子(助教授・大学院国際言語文化研究科)

 講義題目:表現主義舞踊における「醜の美学」−「死の舞踊」を中心に−

 キーワード:モダンダンス、ドイツ表現主義、死の舞踊、第一次世界大戦 

 20世紀の始め、西欧の舞台舞踊の世界において、それまで支配的であったバレエに対抗して、モダンダンスが成立します。モダンダンスの中心地ドイツでは、第一次大戦後、表現主義舞踊が文化全般に大きな影響を与えます。その美学は、伝統的なバレエの美学に対して、いわば「醜の美学」と言えるものでした。本講座では、その醜の美学の典型とも言える「死の舞踊」を取り上げます。本来中世のものである「死の舞踊」の復活は、いかなる様相をもち、何を意味していたのか。文学作品・絵画・映像などを対比しつつ探っていきたいと思います。

 


6月22日(土)

藤井たぎる(助教授・大学院国際言語文化研究科)

 講義題目:音楽にとって美とはなにか

 キーワード:唯美主義、音楽、ハーモニー(調和)、時間、複製

 なぜひとは真剣に“美”や“芸術”を論じなければならなかったのでしょうか。好き嫌い、趣味の問題で片づけなかったのはなぜなのでしょうか。近代の市民階級にとって、音楽とはなにかということをあらためて検討する必要に迫られたとき、音楽が“美”として“芸術”としてたち現れることになったのだと言ってよいでしょう。時代を追いながら、現在において、音楽はなお“美”や“芸術”として機能しているのかどうかを考えていきたいと思います。

 

山田幹郎(教授・言語文化部)

 講義題目:エリザベス時代の言語美意識

 キーワード: 美、ソネット、フィリップ ・ シドニー、詩論、レトリック、美的行為

 アリストテレスが『弁論術』で「美」をどのように考えているのかを見てから、ルネサンス期の英国の文人フィリップ・シドニーの詩(文学)論 (1579-80年頃)に伝統的なレトリックの構成美と内容にマッチした彼一流の言語美意識がどのように表れているかを具体的に検討し、美的行為としての詩学の意義を改めて見直します。

 


6月29日(土)

越智和弘(教授・大学院国際言語文化研究科)

 講義題目:近代における女性美の分裂

キーワード:ヴィーナス、オリンピア、オランピア、父権的秩序、女性性、フェティ シズム、男根的視線、エロティシズム、資本主義、テクノロジー

まとめ:西洋近代においては、それまで女性美の理想を体現していたヴィーナス像が、二つのまったく別の機能を担う美のイメージへと分裂するという新たな現象が目撃されます。現代の女性に要請される美の原形をなすこれら二つのイメージがどのような意図のもとに生みだされたのか、またそこに閉じこめられない女性の美とはなにか、といった点を考えてみたいと思います。

 

星野幸代(助教授・言語文化部)

 講義題目:纏足の美から天足の美まで

 キーワード:纏足、女性、ジェンダー、近現代、ファッション、身体

 中国女性はかつて骨を脱臼させ肉を腐らせて足を小さくしました。シンデレラの姉たちは足を切ってガラスの靴に押し込みました。現在、つま先の尖ったハイヒールのために足の骨を削ることになる女性もいます。これらの共通項は何でしょうか?纏足を出発点として、女性の足とジェンダーについて考えてみたいと思います。

 


7月6日(土)

柴田庄一(教授・大学院国際言語文化研究科)

 講義題目:美的規範の成立と変容ー共同主観と個人的関与の関わりを中心としてー」

 キーワード:規範的価値、貨幣との類似性、変容のメカニズム、流行のサイクル、個人主観

 「美」は、社会の価値意識とも連動し、しばしば規範的価値として抑圧的に作用します。とはいえ、美的規範もまた、「流行」現象と同じく、けっして永遠不変のものではありえません。いかに超越的に見えようと、社会共通の価値尺度は、個々の社会構成員との相互作用の上に築かれるものですから、ひとは、個人主観を絶えず鍛えることを前提に、少なくともみずからの個人的関与を有意義ならしめる努力を怠らないことが肝要であろうと思われます。

 

木下 徹(教授・大学院国際開発研究科)

 講義題目:言語、文化と美の測定

 キーワード:言語、文化、文体、美、測定

 この講議では、極めて無謀な試みであることを十分自覚しながら、美の測定について、多少の実験結果なども交えて考察を行います。まず、美とは何かという問題について、歴史的経緯に沿いつつ有力な数説をかいつまんで紹介します。ついで、測定について一般的な測定尺度の解説からはじめて、美の特徴を考慮して、適した測定方法としては、どのようなものが考えられるかを考察します。最後に、言語に関係する領域における美とその測定の可能性を検討する予定です。

 


7月13日(土)

長畑明利(助教授・大学院国際言語文化研究科)

 講義題目:バークのサブライム論について

 キーワード:バーク、サブライム、ビューティフル、ホラー、モービー・ディック

 我々の美意識は一様ではありません。我々が「美しい」という言葉で表現する性質も一様ではありません。ときに美しいとは呼ばれないものでも、我々は何らかの満足感を覚える場合があります。この講議では、エドモンド・バークの「サブライム」という概念をもとに、我々に満足感を与えてくれるものとして、「美しいもの」以外にどのようなものがあるかを考えます。

 

渡辺美樹(助教授・言語文化部)

 講義題目:拒食の歴史と文学

 キーワード:摂食障害、痩身美、女らしさの病、肺結核、恋煩い、拒食聖女

 1970年代より再度流行し始めた神経性拒食症は、痩身を理想美とする現代が産み出した新しい病気としてみなされることが多い。拒食症の内的要因は、本来は美の追究にあるのではありません。宗教的な動機からの拒食が中世の拒食聖女を産出したのです。その拒食聖女の伝統をイギリス文学は「迫害される処女」として受容し、恋煩いや肺結核を併発する拒食症を「女らしさの病」として描き出します。拒食症は文化の病なのです。


講座会場:名古屋大学 東山地区 人間情報学研究科棟 1階 第1会議室

開催期間:6月15日(土)〜7月13日(土)の毎週土曜日

時間帯:13:00〜17:00

募集人員:60名(先着)

受講料:7、800円(郵便為替で受講申込票を添えて)

申込期間:6月3日(月)ー6月10日(月)

申込方法:郵送に限ります。応募用紙はここ(プリントアウトをそのまま使えます)。

問合・申込先:464-8601 名古屋市千種区不老町

       名古屋大学言語文化部事務室

        Tel. 052-789-4881, 4883


最終更新日:2002年5月20日