2007年度大学院講義

ルネッサンス・キリスト教の表象

開講時限:水 2限

教室:国言棟1Fラウンジ

講義内容:

ある作品(オブジェ)のなかにはいつも何かが表現されている。その作品に表現されているものを、表象と考えるのか、象徴と考えるのかでは異なってくる。象徴といったときには、表現されているものがどんな意味を担っているかという解明が中心で、作品の意味の謎解きに関心が向いている。これに対して表象というときには、表現されているものがどうしてそういう意味を担っているかという文化思想機構に肉薄することに関心を寄せる。この講義はその表題にあるように表象の視点に立つ。

前期は各回ごとにキリスト教美術作品を一つとりあげ、聖なるもののなかに性的なものが潜んでしまう文化思想機構を考える。聖は性とは相容れない別領域の事柄と現代の文化では見なされるが、この時代でもそれは同じであった。にもかかわらず、聖画のなかに性なるものが驚くほど多く顕在化している。この現象は、実は性なるものは聖から排除されず、キリスト教神学や文化学説によって裏打ちされ意味づけられていたから起こっている。こうした壮大な知の体系の一端を解明する。なお各回の下敷きとして、パノフスキーが提起した図像文化学という概念がいつもある。

後期には、キリスト教詩人ミルトンの『失楽園』において、「語る・創造する」ということをめぐり表象の機構を考察する。こう「語る」だけで、講義する私、ミルトンの著作全体を見渡す私、そしてそれの鏡像であることを要請される講義参加者であるあなた、あるいは講義に参加してなんらかの感想をいだくあなたが、被「創造」物として現前化する。さらにこの「私、ミルトン、あなた」は、たとえばミルトンの場合なら、『失楽園』という叙事詩を「語る」ミルトンと、これらの詩を書き終えてこの詩を被「創造」物として観照し「語る」ミルトンといったように枝分かれしていく。創造と被「創造」物との連鎖は、「私、ミルトン、あなた」をめぐって増幅していく。しかしこう「語る」だけでまたしても、こう「語る」信念の正統性・正当性は「語る・創造する」ことによってのみ保証されている。『失楽園』というキリスト教の創造主−被造物の起源に肉薄した作品を追うことで、この保証機構をこの詩人がどう捉え、私たちはどう対処するのかを、講義参加者とともに考える。

講義の進行順序は以下の通りである。

前期

1. ロヒール・ウェイデン「三博士の幻想」:図像学から図像文化学へ

2. レオナルド・ダ・ヴィンチ「聖アンナと聖母子」:聖母子の欲望

3. ハンス・バルドゥング・グリーエン「聖家族」:性的な人間キリスト

4. クイリチィオ・ダ・ムラーノ「救世主」:母親としてのキリスト

5.  レオナルド・ダ・ヴィンチ「一角獣と処女」(デッサン):一角獣と聖なるもの

6. ムリリオ「無原罪の御宿り」:処女懐胎のコスモロジー

 

後期

1. 創造への回帰:叙事詩的欲望は記憶を作るのか?

2. 創造への直観:創造主への問いはメタレベルをこえているか?

3. 創造と被造物との境界:叙事詩の語りは無限空間への迷走を阻むのか?

4. 創造の限界:異教の戦闘神話とキリスト教永遠時間は共在するのか?

5. 底なしの創造:聖霊は異端の神とせめぎ合うのか?

6.  創造の瞬間:叙事詩的欲望への逆提言は可能か?

 

講義とはいっても、ともに対話しながら考えていく形式で授業を進めていく。また講義の約3回ごとに内容理解を試す小テストをする。成績の評価は以下の基準にしたがっておこなう。授業出席(30%)、授業参加(35%)、quiz35%)。

またオフィスアワーはとくに設けず、面談・質問はメイル(ssuzuki@nagoya-u.jp)で随時受けつける。

この講義のさらに細かい内容は以下のサイトにアクセスすること(200747日以降)。http://www.lang.nagoya-u.ac.jp/~ssuzuki/ClassLecture/GraduateLecture.htm

 

教科書:

前期:パノフスキー『イコノロジー研究――ルネサンス美術における人文主義の諸テーマ』(浅野徹ほか訳, ちくま学芸文庫)

後期:蓮實重彦『フーコー・ドゥルーズ・デリダ』(河出文庫)

ミルトン『楽園の喪失』(新井明訳, 大修館)

 

参考書:

日本語で読めるものに限定した。外国語の文献は講義の途中で随時紹介していく。

前期:

エルンスト・H・ゴンブリッチ『規範と形式 : ルネサンス美術研究』(中央公論美術出版)

高階秀爾『ルネッサンスの光と闇──芸術と精神風土』(中公文庫)ページ

高階秀爾『美の思索家たち』(青土社)

田中純『アビ・ヴァールブルク記憶の迷宮』(青土社)

松枝到編『ヴァールブルク学派――文化科学の革新』(平凡社)

 

後期:

ミッシェル・フーコー『知の考古学』(中村雄二郎訳, 新潮社)

ミッシェル・フーコー『言語表現の秩序』(中村雄二郎訳, 新潮社)

ジル・ドゥルーズ『差異と反復』(財津理訳, 河出書房新社

ジャック・デリダ『根源の彼方に』上・下(足立和浩訳, 現代思潮社)